魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
小さな手が震えている。
思いがけない謝罪に、私は数秒ただひたすらに瞬きを繰り返した。
「ひどいことも言って、ごめんなさい……」
「葵様……」
幼い子のよくあるわがまま。そう思っていた。
ただでさえ葵様は主人であり、私たちは主人のわがままを叶える役目。
でもきっと、草下さんが葵様に何かしら教えたのだと思う。それはまだ幼い葵様にとって、必要なことだから。
私は葵様の手をそっと握って、顔を覗き込んだ。
「きちんと伝えて下さって、ありがとうございます。大丈夫です。葵様がちゃんと謝って下さいましたから、私はもう気にしていませんよ」
この子も一人の男の子なんだ。五宮家の次男である前に、たった一つ、かけがえのない幼い命。
「ほんとう……? サトー、もう怒ってない?」
「ふふ。私はもともと怒っていません」
よかったあ、とようやく顔を上げた葵様が、私をじっと見て目を見開いた。
「サトー、お姫様みたい……」
「えっ?」
もしかして、制服のことを言っているんだろうか。普段はスーツ姿だから、新鮮に映ったのかもしれない。
「お姫様、ですか? それは私にはもったいないお言葉ですね……」