魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
そう問えば、木堀さんは「さあ」と肩を竦めた。
「使わないとは思います。常に新鮮な食材でお作りしますから……使用人の賄い用でしょうかね」
彼女が考察を述べた時、キッチンの奥からコックコートを着た男性が顔を出す。
「おう、お疲れ。そろそろここら辺慌ただしくなるから、用が済んだら出てってなー」
「あ、すみません! すぐに出ますので……」
木堀さんがぺこぺこと頭を下げた。
その男性が立ち去る寸前、私は「あの!」と呼び止める。
「このフルーツって何かに使いますか?」
「いーや? 朝使って余ったから、夜には廃棄だよ」
「そうですか。……あの、もらっても大丈夫です?」
「いいけど……」
怪訝な顔をしたまま、男性が奥に引っ込む。
木堀さんは不思議そうに私と男性の会話を聞き終わると、ようやっと口を開いた。
「佐藤さん。それ、どうするんですか?」
小さいバスケットに入れられた果物たちと私を交互に見て、彼女は首を捻る。
「物は試し、ってやつですかね」
「はあ……」
分からない、といったように息を吐く木堀さんに、私は一人作業を始めた。