魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



「蓮様、失礼致します」


十数分後。私は蓮様の部屋のドアをノックした。
彼には「いちいち返事をするのが面倒だから、勝手に入ってきて」と以前言われたことがある。

ドアを開ければ、蓮様は机に向かっているところだ。こちらに目もくれず、淡々とペンを走らせている。
しかしサービスワゴンを押しながら入ってきた私が視界に入ったのか、手を止めて顔を上げた。


「大変お待たせ致しました。お茶のご用意ができましたので、もしよろしければ」


私がそう伝えると、蓮様は呆然とこちらを眺めたまま呟く。


「……何人分?」

「もちろん、蓮様お一人の分ですよ」

「いや……やりすぎだって」


彼の言う通り、ワゴンにはストレートティーだけでなく、ミルクと砂糖、それから先程カットした果物をのせていた。ホットの気分じゃない、と言われてもいいように、氷も用意してある。


「ええ。ですが、私は蓮様のお好きなものがまだ分からないもので」

「だからってこんな……」

「蓮様」


御曹司なのに、施され慣れていないのだろうか。それとも、やはり干渉されたくないのだろうか。
ううん。どちらにせよ、私はこの人の一番にならなければいけない。


「私はあなたの専属執事です! あなたのことを一番近くで、一番大切にしたいんです」

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