魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
彼の瞳が、僅かに見開かれる。
遠い異国の海の色。静かに揺れる穏やかなネイビーブルー。
初めて会った日、綺麗だと思った。でもそれと同じくらい、悲しそうだと思った。
「いらないなんて、言わないで下さい。どうかあなたのお傍に、私を置いて下さいませんか」
きっと必死に掴んでも、手の中からすり抜けてしまう。彼はそれくらい瞬間的で、儚く脆い。
だから、遠回りはしない。まどろっこしいのも全部やめる。手の平じゃなくて、両腕で彼を受け止めに行こうと思う。
「……犬みたい」
「えっ?」
「わんわん吠えて、尻尾振ってさ。そんなことしても、僕は頭なんて撫でないし餌もあげないけど?」
心なしか、蓮様の口調が少し拗ねているように聞こえた。
頬杖をついて上目遣いで私を窺う彼に、恐る恐る問うてみる。
「私が蓮様に見返りを求めているとお思いなのですか……?」
「違うの?」
「とっ、とんでもありません! ご主人様にお仕えするのが私の務めですから!」
一体、いつになったらただの執事として私を見て下さるんだろう。
両手を振って否定した私に、蓮様はしばらく無言を貫いた。お茶が冷めてしまうな、と手を動かした時。
「最初に君を見た時、僕と似たようなものを感じたんだ」