魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
声も出せず、ティーポットを持ったまま固まる。
蓮様は視線を落とすと、自嘲気味に口角を上げた。
「同族嫌悪ってよく言うでしょ。だから君のことは、正直気に食わなかったよ」
「……蓮様は、ご自身のことがお好きではないのですか?」
「自分のこと好きな人間なんて、周りにちやほやされて舞い上がってるだけだよ。認められる世界線でしか生きたことがないから、そう思えるんだ」
初めて聞く声色。まるで泳ぐことに疲れた人魚のように。
黙り込んだ私を、彼はつと見やった。
「僕らは承認欲求の奴隷だ。自分がしたこと、あるいは自分自身に対して、何らかの見返りを求めている」
認められたい。認めて欲しい。
誰もが誰かに望むこと。そう思わないのは、既に満たされているからかもしれない。水位が下がって初めて、満たされていたことを知る。
「でも、君はそうじゃないらしいから」
「蓮様……」
上手な言葉が出てこない。陳腐な感想じゃ、心のシャッターを閉ざされるのは目に見えていた。
「言っとくけど、僕は熱いの嫌いだから」
「はい?」
「それと、余計なものいらないから。次からはお茶だけ持ってきて」