魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


突然移った話題に、頭が追いつかない。
なぜ急に好みを打ち明けてくれる気になったのか。それはよく分からなかったけれど、とにかく収穫はあったので万々歳だ。


「蓮様は猫舌なんですね! かしこまりました!」

「うるさい。ていうか早く出てってよ、気が散る」

「ではお茶を淹れてから……」

「それは自分でやるから」


何度か食い下がったものの、蓮様の方がしぶとかった。
それでもなお部屋を出ない私に、彼は声を張り上げる。


「佐藤! いいから出てって!」

「はっ、はい!」


本来なら叱られて落ち込むべきなのかもしれないけれど、こんなに感情的な蓮様は初めてで、意図せず頬が緩んでしまった。


「なに笑ってるの」


む、と不機嫌丸出しな蓮様が、私を咎めてくる。


「いえ、何でもありません。蓮様、これからどうぞよろしくお願い致します!」


初めて名前を呼んでくれた。私の名前を覚えてくれていた。
それだけでふわふわと浮き足立つのは、春の陽気のせいだろうか。


「え、佐藤……お前、蓮様に怒鳴られてなかったか?」

「ふふ、今なら何でもできそうです」

「あ、そう……」


部屋を出た後、草下さんにやや呆れられながらも、私は晴れやかな気持ちで階段を駆け下りた。

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