魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
その発言に、私は完全に硬直してしまった。
楓はミーハーモードでろくに頭が回っていないのか、どうぞどうぞ、と私を差し出すだけである。
「ありがとう、すぐ終わるから。じゃあ百合ちゃん、行こうか」
「え? あの、どこへ……」
戸惑いを隠しきれずにいると、椿様が私の背中を優しく押した。温厚なのか強引なのか、いまいち掴みきれない。
とはいえ、相手は蓮様のご友人。無礼は許されないと思い、彼に従うことにした。
中庭から校舎の中に入り、渡り廊下に差し掛かったところで椿様が立ち止まる。
「ここら辺で大丈夫かな。ごめんね、急に連れてきて」
「いえ……」
謝るくらいなら連れてこないで欲しい、というのが率直な感想ではある。もちろん口が裂けてもそんなことは言えないけれど。
彼は相変わらず笑っていた。それなのに、私を捉える瞳はどうにも楽しそうには見えなくて、違和感が胸を突く。
「君に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと、ですか?」
何だろう、この落ち着かない感じは。
初めて会った時から薄々思っていたけれど、私はきっとこの人が苦手だ。
椿様はゆっくりと首を傾げると、マロン色の瞳孔を開く。
「ねえ、どうして昨日は蓮と一緒に帰ってたの?」