魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
Lily4 御用があれば何なりと
「それ、何?」
読書をしていた蓮様が、ふと顔を上げた。私が持ってきたプランターに視線を移し、僅かに首を傾げる。
「蓮の花の苗です。今日からここのバルコニーで育てようと思いまして」
「……何でわざわざ僕の部屋で?」
若干不服そうな彼に、私はにこりと微笑みだけを返した。
『蓮の好きなものか……そうだね。植物は結構好きだと思うよ。いつも中庭の花壇とか、通り過ぎる時によく見てるから』
椿様に教えてもらったことを参考に、まずはお花の栽培を始めようと思い至った。彼の名前と同じ、花を。
ハスの花は毎日こまめに水を与えなければならない。彼の部屋のバルコニーに置いておけば、私が彼の元へ訪れる口実になる。
きっかけは何でも良いけれど、とにかく私はもっと彼とコミュニケーションを取るべきだ。
「蓮様。御用があれば何なりとお申し付け下さい!」
せめて家では尽くさなければ。このままでは、半年後に「いらない」とあっさり突き放されかねない。
「じゃあ部屋から出てってもらえるかな。読書に集中したいから」
「かしこまりました!」
彼からの指示に嬉々として頷き、足早に退出する。――って、あれ? なんかうまく追い出されてない?
ドアを閉め、道のりは長いな、と一人肩を落とした。