魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



自然治癒とは素晴らしいもので、翌日にはすっかり起き上がれるようになっていた。

身支度を整え、蓮様の部屋へ向かう。
ノックの後に開けた扉の先。そこにあったのは読書に勤しむ蓮様ではなく、バルコニーに佇む彼の姿だ。


「蓮様……どうされましたか」

「ああ、君か。おはよう」

「おはようございます!」


思わず挨拶をすっ飛ばしてしまった私に、蓮様は特に気にするわけでもなく振り返る。
よくよく考えると、彼から朝の挨拶をしてもらうのはこれが初めてだった。


「もしかして、水やりを……?」


バルコニーに置いてあるハスの花。それを黙って見下ろす彼に、私は恐る恐る問いかける。


「置いた本人が寝込んでたんだから、僕があげるしかないでしょ」

「も――申し訳ありません!」


勢い良く頭を下げれば、「嘘だよ」と彼が言ったので顔を上げた。


「もう大丈夫なの?」

「はい! この通り、ピンピンしてます!」

「それは何より」


鞄を持った蓮様は、じゃあ行こうか、と私を促す。
頷いて彼の後に続き、扉を閉めた。


『僕に魔法をかけて』

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