魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


昨日蓮様にもらった言葉が、まだ頭の中で響いている。

あの後、彼は何事もなかったかのように部屋を立ち去ってしまった。少しだけだけれど、彼の心の部分に触れられたような気がしたのに。

でも、彼は確かに私に言った。魔法をかけて、と。
それは、傍にいることを許されたのと同義なのではないかと、勝手に拡大解釈をしてみたり。

そんなことを考えながら歩く道中、学校に近付くにつれ、蓮様の歩くペースが速くなっている気がして首を傾げる。
更に校門を潜った途端、周りからの視線がこれでもかと突き刺さった。


「蓮様、あの……」


私の顔に虫でもついていますか、と彼に問おうとした時だった。


「蓮、おはよう」


柔和という単語が一番似合う、テノールの響き。

爽やかな挨拶に彼と揃って後ろを振り向けば、椿様が片手を挙げて微笑んだ。


「あ、百合ちゃんも一緒だったんだね。おはよう」

「おはようございます」


会釈をした私に、蓮様が怪訝な顔で固まる。


「……百合ちゃん?」

「え? 蓮、もしかして百合ちゃんの名前知らなかったの?」

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