魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
そういえば確かに、彼の前で「佐藤」以外の名前を名乗った覚えがない。
蓮様は私に視線を移すと、すぐに逸らして口を開いた。
「知らない。佐藤は佐藤だし」
「ん? 百合ちゃん、佐藤っていうんだ?」
「逆に何でそっちを知らないの」
「ええ、だって下の名前しか教えてくれなかったから」
蓮様と椿様、二人の視線がこちらへ向いて、何となく気まずい。はは、と軽く愛想笑いを浮かべておく。
「でさ。ちょっと二人に聞きたいんだけど」
目を細めた椿様が、次の瞬間、遠慮なく核心を突いた。
「――やっぱり二人、ただの知り合いじゃないよね?」
揶揄っているわけでも、冗談で言っているわけでもない。彼はもう既に知っている。そんな口ぶりだった。
「昨日の放課後、蓮が百合ちゃんをお姫様抱っこして帰っていったって、みんな騒いでるよ。二人が朝、蓮の家から出てきたのを見たって人もいる」
前半はまだ分かるとして、後半はストーカーでは……?
ともかく、目撃者がいるなら誤魔化しようがない。冷や汗をかきながら、どうやってこの場を乗り切ろうか、と思考を巡らせる。
すると次の瞬間、蓮様があっさりと告げた。
「この子、僕の専属執事だから」