マザー症候群
波斗が家を出て行く日。
朝早く目が覚めた美波は、波斗の為に朝食の準備を素早く済ませると。それをテーブルの上に置き、美波自身は自分の部屋に閉じこもっていた。
「出て行くつもりなら、早く出て行けばいいのに。この薄情者が」
腕時計を数分おきに見るたびに、美波はいらいらしていた。
まるで、死刑執行を待つ囚人のよう。
部屋の前で波斗の気配があると、美波の心臓は爆発寸前だった。
美波は時の経つのを待ちながら、ただ部屋中を歩き回っていた。
いよいよその時。
「お袋。行くからね」
ドアの向こうから波斗の声がした。
美波がドアを開けた。
「じゃ、行くね。体に気をつけて。また、遊びに来るよ。じゃね」
それだけ言うと、波斗がカバンひとつをぶら下げて出て行ってしまった。
「それだけ」
美波は、余りの愛想の無さに呆気に取られていた。