マザー症候群

 美波は二人のラブシーンを忌々しく見詰めていた。
 (あの角度なら)
 (私が見ている事を知っているはず)
 (意識的に見せびらかせているのか)
 美波、女のもくろみを読み解くと、腸が煮えたぎる思いだった。
 道瑠は人前でも全くのお構いなし。
 「波斗は私のものよ」と、宣言するかのように。道瑠、熱く熱くもっと激しく。
 そして、炎のようなキス。
 見ていられない。
 美波は玄関に逃げるように入ると、ドアを勢い良く閉めた。そして、ドアに持たれ掛かるようにして崩れ落ちた。
 何も考えられない。いや、考えたくもない。
 美波は髪の毛を掻き毟った。
 「波斗」
 美波の口から、知らず知らずに最愛の息子の名前が漏れる。
 「そうだ。波斗に会いに行こう」
 美波はよろよろと立ち上がり、何とか波斗の部屋へ。
 美波が波斗の部屋に入った。
 中は、がら~として人の気配はしない。

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