マザー症候群

 「あいつにがつんと言ってやりやしたよ」
 游が語句に力を込めて言った。
 「何て」
 「あんな歳が倍も違う婆あと。あほぬかせと」
 言いにくい事をはっきりと、遊が言った。
 「お婆さんで悪かったわね」
 と、意地悪そうに美波。
 「そんな意味じゃないっすよ」
 「じゃ、どんな意味」
 「信用。信用させる為でさ」
 游がむきになって呟いた。
 「うふふ。可愛いんだから」
むきになって言い訳をする遊が、美波は可愛いと思った。
 (今日はもっと虐めて上げるから)
 意味深な笑みを浮かべながら、美波が心の中で囁いた。
「今晩は泊まれそう」
 いきなり美波が際どい台詞。
 「今晩ですか。う~ん」
 游が首を傾げた。
 「どうなの」
 「朝早く帰ります。仕事があるので。それで、いいっすか」
 「いいわよ。それでは、勘定を済ませるわね。後で行くから、先に行ってて」
 美波は部屋のキーを游に手渡した。


 
< 120 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop