マザー症候群

 游の後姿が消えるまで、美波の熱い目が後を追った。
 二人がホテルの部屋で会うのは、これが二度目だった。
 部屋に入るなり、游が美波に若豹のように荒々しく迫って来た。
 若い男の一途な力が、美波の嫌な記憶を脳天から消し去った。 
 途方もなく永くて、途方もなく短い時がゆらゆらと流れた。
 遊が、はあはあと大息をつきながら美波から離れた。
 美波の目には、一粒の大きな水玉が真珠のようにきらきらと輝いていた。
 それが、何の為に流れた涙かは、美波本人にもわからなかった。
 美波は何もかも忘れて余韻を味わっていた。
 波が引くように、それは、少しづつ少しづつ引いて行った。
 游が立ち上がる気配がした。
 美波が目を開けた。
 「遊」
 美波が游の名を呼んだ。
 「何っすか」
 「そばに来て」
 「いいっすよ」
 游が美波の隣に寝転んだ。游はジーズの上は裸だった。


 
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