マザー症候群

 堪りかねて道瑠が。小さな声で囁いた。
 「てめえ。指を見やがれ」
 それでも新郎は母親の事が気になるのか、目が会場内を泳いでいる。
 挙句の果てに、指輪は指にうまくはまらずころんころんと下に落ちてしまった。
 新郎は慌てて指輪を拾い何とか新婦の指に。
 会場内から笑いと安堵が。
 無様な真似をして笑い者になった道瑠は、もうかんかん。
 誓いのキスの場面で、何と新婦は新郎の唇を素早く噛んで仕返しを。

 この続きがお色直し後にやって来た。
 新婦 真っ赤な振袖
 新郎 紋付袴
 二人はこの衣装のまま、会場に入るドアの前で先ほどの続きを始めた。
 「あれは何の真似だ」
 と、声を殺して新郎。
 「あれとは何の事や」
 と、声を殺して新婦。
 「唇を噛みやがって。血が出てるやろ」
 波斗が道瑠を詰った。
 「指輪を落としてうちを笑い者にするから、ばちや」
 と、道瑠も言い返した。
 「何を」
 と、言うなり新郎が平手を新婦の頬に喰らわした。
 新婦も負けてない。新郎の紋付の襟ぐりを鷲掴みにして
 「われ!殺したろか」
 新婦が新郎を思い切り締め上げた。


 
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