マザー症候群

 「波斗、と呼んでもらっていいっすよ」
 游が優しい表情をした。
 「ありがとう。でも、游でいいわ。私の可愛い息子は、波斗じゃなく遊よ。游と呼ばせて」
 「嬉っす」
 「私の息子になった印をつけて上げる。遊、左手の小指を出して」
 美波が手を差し伸べた。
 「小指っすか」
 「これが印よ。私の分身よ。いつも私は、游のこの指にいるからね」.
 美波は游の小指の爪に、自分の指と同じ色の濃いブルーのマニュキュアを塗った。
 游は小指にマニュキュアを塗る美波を見て、 子に裏切られた母親の傷の大きさを思い知った。
 二人はそれぞれの思いを胸に床に入った。
 いつしか二人は深い眠りに。
 こうして旅行一日目の夜が静かに更けて行った。



 
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