マザー症候群
波斗は、ハワイのワイキキの浜辺でひとり海を見ていた。
砂浜が砂時計の砂のようにきめが細かく、海から時折 心地良い風が吹く。
波斗が一人でもハワイに来た目的。それは、ハワイの友人二人と会い旧交を温める事。その目的も達成する事が出来た。
ほんの少し前まで住んでいたハワイの街並みが、暫く離れていると変によそよそしく見えた。
小さな蟹が、海と砂浜ぎりぎりを横に歩いている。
波斗はぼんやりと蟹を目で追っていた。
「おい、蟹よ。生きるって難しいよな」
波斗が小さな声で蟹に話し掛けた。
「俺の結婚は間違っていたのか」
蟹は何も答えず横に横に歩いている。
「お袋は怒っているし、道瑠は新婚旅行にも来ない。お前は俺の辛さをわかってくれるよな」
蟹は横に横に歩き、いつか見えなくなってしまった。
波斗は海に向かって独り言を続けた。
「まず、お袋だ。暫くそっとするか。それとも、ハワイの土産を持って何も無かったように接するか」
「どっちがいいのか。もう少し考えてみるか」
超ビキニの金髪女性二人が、ビーチボールで遊び出した。
ビーチボールは高く上がり、そして海に向かって転んで行った。