マザー症候群

(着替え用の着物を、いつ用意したのだろうか)
 游は不思議に思った。
 (そう言えば、『かんざし』を出た時から紙袋を持っていたっけ。あの中に入れていたのか)
 遊が美波の着物姿を見ながら思い巡らした。

 二人は朝食を済ませホテルを出た。
 まずは、渡月橋へ。

 渡月橋。
 渡月橋は、嵐山をバックに桂川に架かる橋で、承和年間に道昌が架橋したのが始まりとされる。亀山上皇が橋の上空を移動していく月を眺めて「くまなき山の渡るに似る」と詠んだことから渡月橋と名付けられる。

 嵐山をバックに美波を渡月橋に立たせる。
 これもまた絵になる。
 そこで、游がカメラを構えた。
 「笑って」
 カシャ。
 「振り向いて」
 カシャ。カシャ。
 「唇を噛んで」
 カシャ。
 「髪をくしゃくしゃにして」
 カシャ。
 「決めのポーズ」
 カシャ。
 カシャ。
 カシャ。 
 游が注文をつけ、美波がポーズでそれに応える。


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