マザー症候群
山根は、調査の口実を考え沢のもとに向かった。
「沢部長、ちょっといいですか」
山根が頭をぽんぽんと叩いている沢に忍者のように音もなく近づいた。
「ああ、びっくりした」
沢は、山根が近づいて来るのを全く知らなかった。
「今日は遅刻されたようですけど、もう体の調子はおよろしいのですか」
山根が沢に慇懃に尋ねた。
「ああ、大丈夫よ。何か私に用?」
「実は、残業の件で」
山根は沢の顔色をちらっと盗み見た。
沢の顔色は非常に悪く肌も荒れている。
(もしかして二日酔い?アルコールの臭いは。畜生。もう少し接近しないとわからない)
山根の目と鼻が鋭く動いた。
「残業?」
死んだ魚のようになっていた沢の目が、突然輝いた。