マザー症候群

 「ええ、制作部は残業が他の部署より飛び抜けて多いものですから。もう少し減らして頂きたいのですが」
 山根がきつい口調で言った。
「夜遅くまで仕事をしちゃいけないの」
 沢が強い口調で言い返した。
 「いいえ。もう少し効率良く仕事をしてもらえないかと。上から、経費節減をきつく言われてまして。制作部だけじゃなく他の部署もお願いするつもりですけど」
 山根が他の部署にもお願いすると、嘘をついた。
 「効率良くね。上からのお達しじゃ仕方がないわね。ふ~ん。わかったわ」
 沢は渋々、総務部の要求に応じる事にした。
 「よろしくお願いします」
 山根は小さく頭を下げると、沢の周りに厳しく目を這わせながら去って行った。
 制作部を出ると、山根は非常階段に身を隠した。そして、沢がトイレに行くのを見張っていた。
 山根、暫し見張りの時間が続く。
 沢が動いた。
 沢は小さなバッグを持って急ぎ足でトイレに駆け込んで行った。


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