マザー症候群
「今だ」
山根は沢の席まで全速力で駆けて行った。
山根が沢の席に。
机の上を点検する。
無い。
引き出しを大急ぎで開ける。
上から一段目。二段目。三段目。
無い。アルコールが入っていそうな容器は何も無い。
「何をしているのですか」
その時、身を屈めている山根の上の方から咎めるような声がした。
山根が声のした方を見ると、制作部の上野真樹だった。
「いったい部長の席で何をしているのですか」
と、怪訝な顔をする上野。
「垂れ込みがあったの。それで調べているわけ」
と、言い訳をする山根。
「垂れ込み?どんな垂れ込みですか」
「それは、社内秘密。悪いけど言えないわ。このことは、沢部長にはくれぐれも内密にね。それでは、よろしく」
そう言うと、山根は背筋を伸ばしてその場から立ち去った。