マザー症候群

 歩く道々。
 (なぜ?何故なのよ。絶対にある筈なのに。アル中患者はアルコールを隠し持ってる。常習者なら当然の話よね。アルコールを入れていそうな容器がどこにも無い。くそっ!尻尾は必ず掴んでみせるから)
 山根は首を傾げながら19階の総務部に戻って行った。
 その頃、沢はトイレの便器の横に立ち、バッグを眺めてにたっと笑みを浮かべていた。
 バッグの中には、紅茶のボトルの中に琥珀色のウイスキーが入っている。
 「お待たせ」
 沢がボトルに軽くキッス。
 ボトルの蓋を開ける。
 「ああ、香しい」
 その香しき香りが、沢の脳天をくらくらっと刺激する。
 紅茶のボトルからウイスキーをゆるりゆるりとラッパ飲み。
 キュウ―。
 五臓六腑に熱い刺激が染み渡り、カーっと体の芯が燃え上がる。
 たまらん。
 「旨いというより陶酔ね」
 「極楽。極楽」
 沢は紅茶ウイスキーの魅力に、というより魔の力の虜になっていた。

 
 
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