マザー症候群

 どんどんドン。
 「開けないと実力行使をするわよ」
 「いいのね。入るわよ」
 山根の執拗な声が沢をお縄にしようと、ドアの向こうから聞こえて来る。
 ずーずーずずー。
 ドアに持たれた沢が力なくずり落ちて行く。
 沢は両足を伸ばしてドアに持たれたまま座り込んでしまった。
 伸ばした足のすぐ近くには便器がある。
 「仕方がないわね。上野さん、蛍光灯交換用の梯子があるわ。それを持って来てもらえない」
 「はい、わかりました」
 上野は駆け足で梯子を取りに行った。
 山根は待つ間、スマホから総務部長の水沢に電話掛けた。
 「部長ですか。山根です。沢部長の尻尾を捕まえました。詳しくは後程お伝えします。すぐこちらに来て頂けませんか」
 「わかった。君は今どこにいるんだね」
 水沢が緊張した声で返答をした。
 「20階の女子トイレの中です」
 「すぐ、そちらに行くから」
 「待ってます」
山根は電話を終えると、トイレの入り口で二人を待った。


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