マザー症候群

 「それは、ウイスキーだろう」
 波斗が琥珀色の液体を見て呟いた。
 「それがどうした」
 「ストレートで飲んで。体に悪いよ」
 「説教する気なら帰っておくれ」
 ふらふらとよろける美波。それでいて美波が毅然と言った。
 二人はリビングへ。
 「いったい何の用だね。この親不孝者が」
 美波が椅子に座りながら棘のある言葉を投げ掛けた。
 とくとくとく。
 ウイスキーをグラスへ。
 かなり飲んでいるのか、美波の目が据わっている。
 「よく言うよ。心配して来てやっているのに。もう飲むのは止めときなよ」
 「うるさい。この親不孝者が」
 美波は息子が幾ら助言してもウイスキーを飲むのを止めようとはしない」
 「そんなに飲んだらアル中になるよ。体にも悪いし。お願いだから、俺の言う事を聞いてくれよ」
 「あんなゲスな女房に尻尾を振る馬鹿息子の助言なんか、誰が聞くものか」
 美波は波斗が助言すればするほど、酒をぐいぐい飲んだ。まるで、あてつけでもするように。


 
< 207 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop