マザー症候群

 わあ~ん。わあ~ん。わああーん。

 「どうして会社を辞めなくちゃいけないの」
 と。ぼやく美波。
 「もう少しで女性初の取締役になれたというのに。ういっ」
 美波がウイスキーをグラスに注いだ。そしれ、それを一気に飲み干した。
 「悔しい。悔しいよ~。あのゲスな女のせいよ。あいつが嫁になんか来なければ。酒になんか溺れる事もなかったのに。ううっうっうっう」
 「仕事中にアルコールを飲んでいるのがばれるなんて。ああ、どじだ。どじだ。大どじだ。情けないねー。死んでしまいたいよ」
 と、美波。
 「そうだったのか」
 と、真相を知ってしまった波斗。
 「辞めたくな~い」
 「辞めたくないよ~」
 美波が両肘を左右に振って、子供のように駄々をこね始めた。
 うえーん。うえーん。うえ~ん。 
 そして、またまた大声で泣き出す始末。
 酒の酔いが回り、普段は決して口にしない本音がぽろぽろぽろり。
 美波が酒の悪戯で、波斗には絶対に言えない事を次から次に吐き出してしまった。


 
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