マザー症候群

 あくる日。
 体調の悪い中、歯を食い縛って美波 会社へ。そして、総務部の水沢部長に、美波は辞表を提出した。
 一流の広告代理店と部長。と、いう肩書には大いに未練があったが、今の状況では仕方がない。
 未練にとらわれているより、後片付け。後片付け。
 沢が引き出しの中を片付け始めた。
 いるものを段ボール箱に詰め、いらないものをゴミ箱に捨てて行く。
 机の上が何も無くなり、引き出しの中が空っぽになった。
 明日から月末前日までは残っている有給休暇を取るつもり。
 美波は終業時間が来ると、部屋の中の景色を瞼に焼き付けた。
 逃げるように制作部を出ると、美波、エレベーターで1階へ。
 玄関ホールを出て、美波が外の風を心地よく感じていた。

 爽やかな風。
 会社を辞めた解放感。
 今日も朝から酒浸りの美波。勿論、会社にいる時間、酒は一休み。
 風と解放感を感じていると、美波、酒の酔いが一気に回って来た。
 「心置きなく飲むぞ。飲みますよ」
 よろけながらくだを巻く美波。
 と、そこへ。突然若い女が現れた。
 金髪ヘアーの若い女は、以前一度だけ会った事のある游の彼女の凛だった。
 凛はくちゃくちゃとガムらしきものを噛んでいる。そのガムをぽいと路面に吐き捨てた。
「婆あ。待たせるやんけ」
 凛が口を開いた。


 
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