マザー症候群
 「​理由?酒ですよ。そうですよ。酒ですよ。仕事中に酒を飲んでるのが見つかったっですよ。そうですよ。どじですね。それも大どじですね。ウイっ」
 美波がろれつの回らない舌で解雇の理由を愚痴り始めた。
 「会社も馬鹿ですね。馬鹿ですよ。こんな優秀な人材を首ですよ。大馬鹿ですね。酒を飲んでもいいじゃないですか。アメリカの広告代理店なら会社内にバーがあるのも当たり前ですよ。今時、頭が固いですね。トンカチですね。ウイっと」
 と、愚痴り続ける美波。
 「部長、余り飲まない方がいいっすよ」
 美波が酒をグラスに注ぐのを見て、游がたしなめた。
 「これが飲まずにいらりょうか。ですよね。游・・・。今日はとことん飲も。朝まで付き合え。ですよ」
 「まいったな。部長がこんなに酒癖が悪いとは。酒より今日はLのデイト。Lのデイトってどんなデイトっすか」
 「あっ、忘れてた。そうだ。そうですよね。観覧車。観覧車ですよね。ああ、観覧車に乗りた~い」
 美波が両腕を左右に振って駄々をこね始めた。
 「観覧車。って、何すか」
 「つべこべ言わずに乗せろ。おい、游。これは、部長命令ですよ。ウイっ。乗りた~い。乗りた~~い」
 美波、駄々を捏ねる余り椅子から下へずり落ちてしまった。


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