マザー症候群

 「ありがとね」
 窓から夜景を見ていた美波が、游に視線を移してぽつりと言った。
 「化石の恋、かな。恋なんか、とっくの昔にに絶滅したと・・・思ってたわ。こんな化石みたいな女に夢をありがとう。ういっ。楽しかったよ。凄くね」
 「やだやだ」
 游が駄々を捏ねる。まるで、子供みたいに。
 「もう・・・終わった・ですよ」
 美波がぽつりと言った。
 「終わってなんか、いない」
 「the ・・エンド。終わり。ですからね」
 「どうして?」
 「どうしても・・そうですよ」
 「これだけ言っても」
 「これだけ・・・言っても・・ですよ」
 「お願い!」
 游が必死に両手を合わせた。
 「観覧車が一回りすれば・・・それで終わり・・ですからね。分かりましたか。ういっ」
 観覧車は約105mの最高位に上がっていた。遥か彼方に大阪湾に浮かぶ船の灯りがきらきら見える。
 「船での別れも・・良かったですね」
 「船なんか。乗りたくねえ」
 それきり游は喋ろうとはしなかった。


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