マザー症候群
そんなある日の夜。
道瑠はネオンの海を彷徨った。
苦しくて。苦しくて。
腹が立って。腹が立って。
苦しさと怒りから逃れるために、あてもなく漂流し、道瑠は一軒の店に辿り着いた。
カウンターに席が10席ばかりあるどこにでも有るようなスナック。
カウンターの中には、40代のマスターと20代の若い女の子がいた。
「注文は?」
マスターが右の端の席に腰を掛けた道瑠に声を掛けた。
「ええーと」
道瑠が迷っていると。
「ご馳走するよ」
一人の男性の客がマスターに合図を。
「例のワインをあちらさんに」
声のする方を道瑠が見ると、スーツの下にTシャツをダンディに着こなした男がいた。