マザー症候群

 マスターが仏製の白ワインを道瑠の前にボトルごと置いた。
 「好きなだけ飲んでくれ」
 男の客が言った。
 「ありがとう」
 客に道瑠が礼を述べ小さく会釈をした。
 マスターがワイングラスに注いだワインに道瑠が口をつけた。
 芳醇。濃厚。
 年輪を経たぶどうの酸味と深みのある甘みが、上質のワインである事を物語っていた。
 「おいしい」
 思わず、道瑠の口から言葉が漏れた。
 「だろう。このワインをまずいという奴は、まずいないだろう」
 と、言いながら男が道瑠の隣の席に座った。
 「いいかな」
 「あっ、どうぞ」
 おいしいワインをご馳走になったので、道瑠は快く応じる事にした。
 男は30代前後。品も良く、かなりのイケメンだ。
 端正なその顔は、どこかで見た事がある。と、道瑠は思った。


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