マザー症候群

 「彼、見た事があるでしょう」
 マスターが道瑠に笑顔で話し掛けてきた。
 「えっ、ええ」
 道瑠が思っている事をマスターが言ったので、道瑠は一瞬狼狽えた。 
 「映画やテレビのドラマでよく見るでしょう。彼、脇役では有名なんですよ」
 と、マスター。
 「えっ、俳優なん」
 そう言えば、どこかで見た事がある。と、道瑠は確かに思った。
 「奥さんは大物女優の大笹みどり。あんな美人を嫁に出来て羨ましい限りですよ」
 マスターが本音をポロリ。
 「あなたも家内に全然負けていませんよ」
 と、俳優の峰渡が道瑠の顔を覗き込んで澄ました顔で言った。
 「うちが・・・。お宅、冗談がきついわ」
 道瑠は峰のきついお世辞に酒以上に酔っていた。 
 「本当ですよ。いろんな女優と共演しましたが、あなたより美人なのはほんの2,3人ですわ。これ、まじでね」
 峰の饒舌はつづく。


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