マザー症候群


 「・・・」
 波斗、幾ら考えても答えを出す事なんか出来なかった。
 「10分間だけ時間をやるわ。姑を選ぶか。俺を選ぶか。白黒はっきりせんかい。ただし、姑を選ぶぶんねんやったら離婚や。そのつもりでな」
 そう言って道瑠が寝室から出て行った。
 道瑠は台所でコーヒーを飲み頭を冷やしていた。
 冷静になって来ると、夫への裏切りが道瑠の脳裏をよぎる。
 道瑠は元来酒は余り強くない。
 ワインを5杯も飲めばかなり酔っていたと言える。酔ってはいたが、意識ははっきりしていた。
 峰は波斗と違い、度重なる女遊びをしてかなりのテクニックを備えていた。
 道瑠は酔いと不満の爆発の中で、今まで味わった事のない頂点に上りつめていた。
 裏切りの後ろめたさより、夫への不満、姑への憎しみが数段上。
 道瑠はコーヒーを啜りながら愚かな自分を正当化していた。


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