マザー症候群
波斗は困惑していた。
母親と嫁のどちらかを選べと言われても選べる訳がなかった。
それで、着替えを速やかにバッグに詰め込むと玄関に向かった。
ドアの向こう側にいる道瑠は幸い気が付いてない様子。
「到底選べないよ。ごめんね」
そう言うと、ドアを開け表に出た。そして、一目散にバッグを抱えるようにして走り出した。
敵前逃亡。祝成功。
万歳したい気持ちをぐっと堪え、波斗は深夜の街を走り続けた。
道瑠は腕時計を見た。
あれから、10分は優に過ぎている。
「よ~し。今度こそとっちめてやるから」
道瑠は勢い良くドアを開け寝室に入った。
中には、誰もいない。
「畜生!逃げやがった」
道瑠は気が抜けてへなへなと座り込んでしまった。
後日。道瑠は市役所に行き、離婚証書を取り寄せると名前を書き捺印し波斗の実家の住所に送り届けた。