マザー症候群
プレゼンの結果発表日。
営業の井浪に待ちに待った電話が入った。
「えっ、本当ですか」
電話でクライアントからプレゼンの結果を聞いた瞬間、井浪は満面笑み。その後、顔面が大きく崩れ、大粒の水滴が後から後から滴り落ちた。
「うちのが採用ですか。本当ですか。本当ですか。ありがとうございます。ううう」
涙を背広の袖で拭きながら井浪が電話の応対を終えた。
感激。また感激。そして、井浪が大事な人の顔を思い出した。
そう。沢部長の顔だ。
「あっ、そうだ。早く言わなくちゃ」
そう言うと、井浪が2階に向かって一目散に走り出した。
「部長、やりましたよ。うちが採用。採用ですよ」
井浪は興奮の余り少し早口で言った。
「えっ、本当。本当なのね」
井浪にプレゼンの結果を聞き、美波は耳を疑ってしまった。