マザー症候群

 「もう一つの理由と言うのはね。大学の後輩の井本、井本ちゃんと呼んでるけど。の事なの」
 美波が罰悪そうに呟いた。
 「井本ちゃんがどないしたん」
 と、少し苛立ち加減の真知子。
 「彼女は心通時代から、私の部下として働いていたんだけど。その心通を辞め私の介護を献身的にしてくれた訳。病院に入院している時も、家に帰ってからもね」
 「その後輩凄いわね」
 「そこまでなかなか出来へんで。身内でもないのに」
 美波の話を聞いて、知美と真知子が心底驚いた。
 「そうでしょう。それには訳があるの。井本ちゃんは波斗の事が好きだったの。波斗が結婚する前からね。その波斗が離婚をしたでしょう。後添えに人生を賭けたみたい。私はそう睨んでいたけど」
 「その後輩、なかなかやるじゃん」
 と、しきりに感心をする知美。
 「本当にいい子なのよ。私の為に献身的に介護をしてくれたわ。それはそれは。下の世話までね。私は申し訳なくてね。それで、人肌脱ごうと決心した訳」
 「どう人肌脱いだんや、美波は」
 美波の話に真知子が身を乗り出して。 


 
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