マザー症候群

 美波は自宅に帰ると、すぐさまパソコンに向かった。
 ワードにクリック。
 レシピの作成。
 それは、井本ちゃんを波斗の花嫁にする為の美波の秘策。
 波斗の好きな料理のレシピを作り、井本に母親の味を伝授するというもの。
 出来上がった料理を弁当に詰め、昼休みに美波がチェックをする。
 母親の味を井本が再現出来れば、波斗の胃袋は必ず掴む事が出来る。
 これが、一発逆転の美波の秘策だった。
 「出来た!」
 「これで明日には井本ちゃんに渡す事が出来る」
 美波は印刷した十数枚のレシピを見て、にんまりとほくそ笑んだ。
 「可愛い波斗を・・・」
 「あの女にだけは渡すものか」
 「死んでも渡さない」
 「これで、あの女の息の根を止めてやる」
 自分自身も気づかないうちに、美波が独り言を発した。それは、彼女の心の言葉だった。
 美波には勝つ自信が大いにあった。そして、ケーキよりも甘い勝利の夢を見ていた。

 
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