マザー症候群

 道瑠は、美波のそばに若い女がいるのを見て唖然としてしまった。
 (何じゃ。この女は。今日が何の日かわかっとんのか。あほんだら。気をきかせ)
 もう少しの所で言葉になって口から出る所を、道瑠はぐっと堪えた。
 「榎本道瑠です。今日はお招きに預かりまして本当にありがとうございます」
 道瑠が平然さを装い、美波に丁重な挨拶を行った。
 「あっ、そう」
 美波、軽く受け流す。
 「波斗、紹介するわ。こちら井本楓さん。私の大学の後輩。今日は料理を手伝いにね。私ももう歳でしょう。一人で料理を作るのは大変なのよ」
 「そんなに気を遣わなくて良かったのに。ああ、沢波斗です。今日はお袋のわがままに付き合って頂いてありがとうございます」
 波斗が井本に自己紹介を行った。



 
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