マザー症候群

 「ありがとう。でも、これらを作ったのは私じゃないの」
 と、涼しい顔で美波。
 「えっ、嘘!」
 波斗、美波の言葉が信じられない様子。
 「本当よ」
 「これはお袋の味だよ。以前食べた味を舌が覚えている」
 と、波斗。
 「そうよ。私の味よ。でも、私じゃないの」
 「じゃ、誰が」
 「井本ちゃんよ」
 「嘘だろう」
 波斗が心底驚いた。
 「本当よ。私が作ったのは、ばら寿しと茶碗蒸しだけ。後は、井本ちゃんが作ったのよ」
 「嘘っ?」
 波斗の隣に座っている道瑠から、思わず言葉が漏れた。
 「実は、レシピがあるの。井本ちゃんはそれに忠実に作っただけ。味見をして私の味に近い事は確認済みだけど」
 「びっくりだな」
 「ねえ、波斗。井本ちゃんをお嫁さんにもらったら」
 「えっ・・・」
 美波の突拍子な言葉に、波斗が言葉を失った。


 
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