マザー症候群

「井本ちゃんなら私の味が再現出来るし。器量、性格も悪くないし。いいと思うけどな」
 美波が井本の顔を見ながら。
 井本、小さく微笑む。
 「レシピさえもらえればうちだって。お義母さん、レシピを下さい。お願いします」
 突然、波斗と美波の話を聞いていた道瑠が、悲壮な顔をして呟いた。
 「お義母さん・・・」
 美波の顔が険しい表情になった。
 「お願いします。きっと、いい嫁になりますから」
 「認めてもない人がいい嫁になれるの。ふ~ん、笑わさないで」
 「認めてもない?」
 道瑠が泣きそうな声で。
 「そうよ。私はあなたを波斗の嫁には認めない。絶対に認めないから」
 美波が夜叉のような形相で毅然と言った。
 「そんな~。うちのどこがあかんのですか」
 「全部よ。波斗の嫁には井本ちゃんを考えているの。だから、レシピを渡したのよ」
 「あんまりやわ。波斗、うち帰るわ」
 そう言うと、道瑠が一目散に駆け出した。



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