マザー症候群

 叩く拳が急に止まった。
 「あっ、そうや。忘れてた」
 道瑠、真顔で。
 「何を?」
 「ケーキ。渡すタイミングが無くて
 椅子の下に置いたままや」
 「俺が食べとくから」
 「全部食べてな」
 「OK牧場」
 波斗の冗談で、二人は顔を見合わせて笑い合った。
 道瑠の目からは、もうすっかり涙は消えていた。

 

 
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