ガトーショコラを甘くして Change bitterness to sweetness
「それでは。新規開発の成功を祝してかんぱーい」
たくさんのグラスがぶつかり合い盛り上がる中、隣ではミカが容赦なく愚痴る。
「新規開発なんて、大袈裟。ちっちゃなプロジェクトじゃない」
盛り上がる声たちとグラスのぶつかり合う音に紛れた愚痴は、周囲に聞こえることもなく私としてはホッとする。つまらないいざこざに巻き込まれるのは面倒というもの。
チェーンのイタリア料理店を貸し切った祝賀会は、他のお客がいないのをいいことに大盛り上がりだった。飲み放題のお酒は安いものに限られているけれど、それでもピザやパスタは美味しいし、デザートもついている。
ミカと並んでテーブルに着き、パスタやピザをお皿に取る。斜向かいにあるテーブル席に座っている宮原君の隣では、ななみちゃんが甲斐甲斐しくお皿にパスタを取り分けてあげている姿が目に入った。
あの二人、お似合いだな。
口元に手をやり笑うななみちゃんは、きっと宮原君のことが好きなのだろう。私も好きだから、よくわかる。あの表情は、恋をしている顔だ。
あんなに素直に自分の気持ちを出せるのは、とてもま羨ましい。
私もななみちゃんとまではいかなくても、素直に感情を表に出せていたならもう少し可愛げも出たのだろうか。
心に寂しさが舞い降りて、仲良く話す二人から目をそらした。
安いお酒に飽きてきて、パスタやピザにも満足した私は、デザートの置かれている奥のテーブルへ向かった。
小さなカップに入ったオレンジのクラッシュゼリーに香ばしいカラメルののったブリュレ。マンゴーのプリンもある。小さくカットされたケーキは四種類。王道のショートケーキにチーズケーキにフルーツタルト。それに、苦い思い出になってしまったガトーショコラ。
ガトーショコラも定番のケーキに入るから、今までも目にする機会は少なくなかった。けれど、その姿を目で捉えるたびに、あの頃の切なさがぎゅっと心を締め付けて苦しくなってくる。
手作りなんて、しなきゃよかった。それとも、私が作ったから気持ち悪かったのかな。だとしたら、もっと最悪だよね。
今更過去を後悔したところでどうにもならないというのに、飽きもせずにタラレバばかりを思ってしまう。