言わなきゃわからない?
「でも、実際のところレベルに差があるだろ」

「…はい」


否定は出来なかった。
それもあったので、担当制は置かないと言いながらも。
栄さんの案件に関してはあたしが最終チェックを入れていた。


「これから面倒なとことの取引が始まるんだ」

「ミスられると困る」


江藤課長と栄さんの両方からのプレッシャー。
要するに。
あたしは選ばれたわけだけど。
ちょっと、気が重い。
でも、チャンスでもある。


「…わかりました」


フゥッ息を吐く。
あたしは気合いを入れて返事をした。


「江藤さん、このまま相田さん借りていいですか」

「あぁ、打ち合わせか」


「はい」と返事をした栄さんがテーブルに置いていたタブレットPCに手を伸ばした。
ディスプレイをサッとタッチして、資料を表示させる。


「栄さん、ノート取ってきていいですか」

「資料はメールしとく。とりあえずサラッとだけ聞いて」


江藤課長がミーティングルームから出ていき、二人だけになった。
タブレットPCを二人の間に置き、栄さんは説明を始める。
低いけど、聞き取りやすいトーン。
落ち着いた話し方。
時折、ふわっと栄さんのコロンの香りがする。

その日は、帰ってからも栄さんの香りが記憶に残った。
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