言えよ、俺が欲しいって。


「なに?」



「もうそろそろ、離れてくれませんか?」



さっきと変わらず、あたしの目の前には相川くん。後ろには扉。そして、隣には相川くんの右手。

少女漫画でよくある光景だ。
だが、しかし。

“壁ドン”ってもっとキュンッてするものじゃないの?



「離れたくない」



と、相川くんが不意にそんなことを言い出して。

何言ってんだ、この人。



「とか言ったら、どうすんの?」



「別にどうもしないよ!」



「ちょっとは、どうかしろよ」



相川くんはそう言うと、あたしから離れていく。
やっと、開放された。自由だ。

乙女の夢である“壁ドン”は、思ったよりも息苦しいものだった。

< 45 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop