言えよ、俺が欲しいって。
「なに?」
「もうそろそろ、離れてくれませんか?」
さっきと変わらず、あたしの目の前には相川くん。後ろには扉。そして、隣には相川くんの右手。
少女漫画でよくある光景だ。
だが、しかし。
“壁ドン”ってもっとキュンッてするものじゃないの?
「離れたくない」
と、相川くんが不意にそんなことを言い出して。
何言ってんだ、この人。
「とか言ったら、どうすんの?」
「別にどうもしないよ!」
「ちょっとは、どうかしろよ」
相川くんはそう言うと、あたしから離れていく。
やっと、開放された。自由だ。
乙女の夢である“壁ドン”は、思ったよりも息苦しいものだった。