祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「クルト!」

 そして入口の方に向かって叫ぶと、すぐにその扉が開き、険しい表情をした男が速やかに中に入って来た。

「陛下。っこれは一体……」 

 状況を見てクルトは呆然とした。ヴィルヘルムは確かめたいことがあると言って、他の家臣たちはもちろん、自分やエルマーまでも部屋から出て行くように指示をした。

 当然、クルトは反対した。いくら相手は女で、腕を縛り動きを封じたとはいえ、王の身になにかあっては洒落ではすまされない。

 しかし、ヴィルヘルムは譲らず、命令という形で自分たちを部屋の外に追い出した。おかげで扉一枚隔て、もしも部屋でなにかあったら、いつでも入り込めるようにと待機していたわけだが。

 目の前では、なぜか王までベッドに上がっている。そのベッドは乱れていて、女には、なぜかシーツがかかっている。これは、どういうことなのか、クルトは頭の整理が追いつかなかった。

「あれ? 陛下、ついにその気になられたんです? 我々お邪魔でした? それとも事が終わった後ですか?」

 固まっているクルトの横からエルマーがひょいっと顔を出し、なんともあけすけな言い方で現状を問うた。そのおかげでクルトがようやく我をとり戻す。

「陛下、これはどういう」

「薬師を呼べ。それから彼女に合う服も用意しろ」

 クルトの言葉を遮り、ヴィルヘルムはゆっくりとベッドから降りた。そしてその場から離れていく背中にリラは視線をやる。リラもまた状況に頭がついていかない。

「リラ」

 ふいに名前が呼ばれ、リラは動かせるだけ、精一杯顔をそちらに動かした。

「もう一度言う、お前は私のものになったんだ。勝手な真似はくれぐれもするな」

 相変わらず冷たい目を向けられ、王はその場を後にした。久しぶりに呼ばれた名前にリラはなんとも言えない気持ちになった。
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