祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「その髪を覆うものを用意させよう。下手に目立つのはお前も本意じゃないだろ」

「あ、はい」

 反射的に返事をしてから、リラの心に小さな棘が沈んでいく。それは今日、最後にブルーノに言われた言葉を受けたときと同じような痛みだった。黙り込むリラを不審に思ってか、ヴィルヘルムが、リラの顔を覗き込む。

「どうした?」

「この髪、切りましょうか」

 抑揚のない声で提案する。そして、リラはヴィルヘルムの言葉を待たずに続けた。

「隠す手間を考えれば切った方が早いです。これからも外に出ることも多いですし。私のような外見の者が陛下のおそばにいて、あれこれ邪推されるのも、申し訳ないですし」

「余計な気を回す必要はない」

「ですが」

「私はこの髪が気に入っている」

 食い下がろうとしたリラに有無を言わせない強い口調で言い放った。おかげでリラもその迫力に黙らざるをえない。ヴィルヘルムはリラの銀色の髪に手を伸ばし、一筋すくいとった。たゆんだ髪がはらりと落ちる。

「髪だけじゃない。その紫の瞳も、惑わすように美しく、よく似合っている。お前にとっては忌々しいだけのものかもしれないが」

 リラはなにも答えられなかった。他人に自分の外見のことを、こんなふうに肯定して、好いてもらえたのは初めてで、それはとても嬉しいことだった。

 それなのに、こんなにも苦しいのはなぜなのか。胸の奥につっかえているものの正体が分からない。
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