祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 この館の元の持ち主であり、メラニーの父親であるゴットロープと、妹のカミラ、そしてオスカーは昔馴染みだった。

 幼い頃から物静かで、読書をしながらひとりで過ごすのが好きな兄に対し、妹のカミラは快活で、どちらかといえばお転婆気味な性格。実に対照的な兄妹だったが、それでも三人の仲は悪くなかったという。

 そんなゴットロープが結婚したときはオスカーもカミラも大層驚いたが、純粋に祝福した。父親から譲り受けたこの館で、彼は幸せな新婚生活を送り始めた。

 結婚して一年後にはメラニーも生まれ、お祝いに訪れたオスカーとカミラが見たのは、堅物と思っていたゴットロープが幸せそうに笑っている姿だった。

「ただ、彼の妻が亡くなってからゴットは変わってしまいました。昔以上に誰も寄せつけなくなり、黒魔術や悪魔学の本を読み漁るようになったんです」

 まだ幼いメラニーを残し、先立った妻への悲しみを紛らわすかのように、部屋に、そして自分の殻に籠るようになったゴットロープ。度々、心配して様子を見にきたシュライヒ夫妻に対しても会うのを渋り、とりつく島もなくなっていった。

 一人娘のメラニーも無口で、同じ年齢の子どもたちに比べれば不気味なほど、おとなしい。そして、無理な生活をしたのが祟ったのか、ついにゴットロープが倒れたのを機に、シュライヒ夫妻はここに住み込み、ゴットロープやメラニーの面倒をみることにしたのだ。ゴットロープが亡くなった今も。

「まさか、あんなに早く妻の後を追うなんて。ゴットは心臓が弱ってて最後はどうすることもできませんでした」

 悔しさを滲ませた声に、誰も言葉を発せられなかった。そのとき、食堂の入口付近で物音がし、一同の視線がそちらに向く。

 そこには長いブロンドの髪は顔にかかり、ふらふらと今にも倒れてしまいそうな婦人の姿があった。
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