祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「わざわざメラニーのために来てくださったのに、お出迎えもせず、すみません」
蚊の鳴くような声で挨拶される。オスカーの妻であるカミラだった。オスカーから聞いていた快活という印象は、今はまったく感じさせない。カミラは、覚束ない足取りで壁にもたれかかりながら客人たちに近づいていく。
「お願いです、あの子を助けてください。あの子は、メラニーは悪魔に憑かれているんです。だ、だってあの子、お、おかしなことばかり言って! そう思えば今度は全然喋らなくなって! なにを考えてるのか分からないんです! いつも兄さんのおかしな本ばかり読んで! あの子は、あの子だけは!」
「カミラ!」
いさめるように、支えるようにオスカーはカミラのそばに駆け寄り、その体を抱き止める。興奮状態のカミラは、まだなにかを喚いていた。
「すみません、妻を部屋に送っていきます」
早口で告げ、オスカーはカミラの肩を抱いて、部屋を後にした。残ったのは、重たい沈黙だけだった。
「どう思う?」
沈黙を破ったのはブルーノだった。その問いかけは、リラとエルマーに投げられたものだ。エルマーは珍しく顔をしかめ、リラは目線を落とす。答えたのはエルマーの方だ。
「まずは、メラニー本人に会ってみないことには……しかし、今回は思った以上に手強そうですね」
「おかしなことばかり、ってなんのことなんでしょうか?」
「この館に関しては色々あるみたいだからなぁ」
リラの質問に、ブルーノは行儀悪く頭の後ろで手を組み、背もたれに豪快に体を預けた。
「ブルーノ様、役目は果たされました。我々はもう引き上げましょう」
なんとも情けない声をあげたのは付き人のユアンだ。頭の白さのおかげで、実年齢よりも老けて見えるが、それは彼の主人の無茶ぶりのせいもあるのだろう。そのときオスカーが気まずそうな顔で戻ってきた。
蚊の鳴くような声で挨拶される。オスカーの妻であるカミラだった。オスカーから聞いていた快活という印象は、今はまったく感じさせない。カミラは、覚束ない足取りで壁にもたれかかりながら客人たちに近づいていく。
「お願いです、あの子を助けてください。あの子は、メラニーは悪魔に憑かれているんです。だ、だってあの子、お、おかしなことばかり言って! そう思えば今度は全然喋らなくなって! なにを考えてるのか分からないんです! いつも兄さんのおかしな本ばかり読んで! あの子は、あの子だけは!」
「カミラ!」
いさめるように、支えるようにオスカーはカミラのそばに駆け寄り、その体を抱き止める。興奮状態のカミラは、まだなにかを喚いていた。
「すみません、妻を部屋に送っていきます」
早口で告げ、オスカーはカミラの肩を抱いて、部屋を後にした。残ったのは、重たい沈黙だけだった。
「どう思う?」
沈黙を破ったのはブルーノだった。その問いかけは、リラとエルマーに投げられたものだ。エルマーは珍しく顔をしかめ、リラは目線を落とす。答えたのはエルマーの方だ。
「まずは、メラニー本人に会ってみないことには……しかし、今回は思った以上に手強そうですね」
「おかしなことばかり、ってなんのことなんでしょうか?」
「この館に関しては色々あるみたいだからなぁ」
リラの質問に、ブルーノは行儀悪く頭の後ろで手を組み、背もたれに豪快に体を預けた。
「ブルーノ様、役目は果たされました。我々はもう引き上げましょう」
なんとも情けない声をあげたのは付き人のユアンだ。頭の白さのおかげで、実年齢よりも老けて見えるが、それは彼の主人の無茶ぶりのせいもあるのだろう。そのときオスカーが気まずそうな顔で戻ってきた。