祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「先ほどはすみませんでした」

「いえ、奥様の調子はいかがですか?」

 すかさず返したのはブルーノで、オスカーは無理矢理笑顔を作る。

「大丈夫です、また眠りましたから。妻も兄を亡くし、参っているんです。本当は、その悲しみを分かち合うはずのメラニーとも上手くいかなくて……」

「メラニーに会うことはできますか?」

「ええ、もちろん。どうか会ってやってください。ただ、あの子と話をするのは難しいかもしれません」

 それから、全員でいきなり部屋を訪れるのもメラニーを警戒させるだけだ、という結論になり、エルマーとリラがメラニーと直接会うことになった。

「やはり、相手も少女とはいえ女性ですし、同性の方がいいでしょう」

 本音はメラニーに悪魔が憑いているのかをリラが見る、というところにあるのだが、オスカーもいる手前、あえてエルマーはそう話しかけた。

「あの、先ほど奥様が仰っていた『おかしなことばかり言って』というのは、どういうことなんでしょうか」

 リラが前を歩くオスカーに躊躇いがちに問いかける。オスカーはああ、と振り返ることもなく話し始めた。

「ゴットが亡くなってしばらく経ってからです。この家で、メラニーがいきなり、誰もいないところに話しかけたり、リアクションをとるようになったんです。誰と話してるんだい?と尋ねると不思議そうに、『ほら、ここにいるでしょ?』なんて、なにもない空間を指差したり。最初は父親が亡くなった精神的ショックからくる空想かとも思ったのですが、そういうわけでもないんです。ついには壁からノック音が聞こえたり、不気味な獣のような声や、物が勝手に散らかるようになって。それがどう考えても、とても人間わざとは思えないような状態なんです」

 淡々と話しながらも、理解できないことへ抱く恐怖が声から伝わってくる。その現象の理由は分からない。でもなにかが、必ずあるはずだ。
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