祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「それでは陛下、改めて説明して頂きましょうか」

 すべての執務を終え、書類を渡したところで、相手の眉間の皺は深く刻まれた。 近くに立っていたエルマーは、他の者たちを払い、辺りに人がいなくなったことを確認してから、クルトに向かって目で合図する。

「説明とは?」

 ヴィルヘルムはつまらなさそうにきっちりと着ていた服を緩め、背もたれに体を預けた。

「とぼけないでください。彼女のことです」

「情けをかけてやっただけだ」

「なら、ここに置いておく必要もありません。すぐに手配して」

「その必要はない。あれは私への献上品だ」

「陛下!」

 二人の間の刺々しい雰囲気にエルマーが割って入る。

「まあまあ、お二人とも落ち着いて。それにしても、どうしたんです、陛下? 後宮に一歩も寄りつかないあなたが。まさか本当に彼女を慰みものにするおつもりですか?」

 相変わらず飄々とした言い方だが、口調から真剣さは伝わってくる。ヴィルヘルムは大きくため息をついた。

 その見た目、地位から花嫁候補には困らない。位ある貴族たちの娘、他国から国同士の結びつきを考え送り込まれた娘、様々な思惑を背負って多くの女性たちが王の元にやってきたが、王は誰一人として興味を持つことはなかった。

 いきなり見ず知らずの相手と結婚しろとは言わない。強制的に結婚させる法もこの国にはない。少しでも心を通わせられるよう、彼女たちを後宮に住まわせ、それなりの待遇をして、いつでも王が足を運べる状態にしていた。

 しかし、肝心の王にその気がなく、それを王の債務が忙しいから、という理由だけでは通せなくなっていた。後宮に通うのも債務のうちのひとつである。
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